新しい遊びを仕掛け続けるプロが到達した「最高の娯楽」とは?
- 話す人非日常クリエイター/堀元見さん
- 聞く人井上マサキ
遊ぶ
今回登場するのは「非日常クリエイター」を名乗る堀元見さん。「フェチ×プレゼン」や「フリーハゲ」などユニークなイベントを仕掛ける堀元さんですが、最近イベントに対する考え方が変わったそう。その結果、「村」を作り始めることに。それってどういうこと!? というか、非日常クリエイターってなんですか……?
★ヒトツダケ商店街レポーター
お笑いと路線図が好きなフリーライター。最近、22時になると眠くて寝てしまう。
やいのやいの言う係。
その場でハンコを押してもらおう
さっそくなんですけど……堀元さんが名乗る「非日常クリエイター」ってなんですか?
ざっくり言うと「遊び」を作って生きています。新しい遊びを作るのが僕の仕事です。プロのイベンターですね。学生時代からイベント作りをやっていたんですが、2016年の春に大学を卒業してプロになってからは、大小合わせて30ほどイベントを開催しています。
どんなイベントを企画しているんですか?
そうですね……。去年Twitterですごい拡散されたのだと、「フリーハゲ」とか。
フリーハゲ……?
禿げ放題ってこと?
街角で通行人とハグをする「フリーハグ」ってあるじゃないですか。あれの「ハゲ」版です。渋谷の駅前で「ご自由に刈ってください」というプラカードとバリカンも持って立ったんですよ。僕の髪を自由に刈ってくださいと。
通行人にバリカンで坊主にされる「フリーハゲ」をやった記録
すごい、バリカンでガンガン刈られている。
何人くらい刈ってくれたんですか?
友達3人と刈られたんですけど、80人くらいの人が刈って行きましたね。意外と皆さんノリノリで。女子高生にも刈られました。
羊毛の収穫みたいなノリだ。
Twitterで #フリーハゲ ってハッシュタグを付けて実況してたんですけど、ものすごい拡散されましたね。1週間後に交流会に行って挨拶したら「フリーハゲの人ですよね!」って言われました。
1週間後だから実際まだハゲてますしね。
すごい手応えあったんですよ! これは広告主がつくぞと思って、薄毛情報のメディアとかに売りこんだんです。でも担当者の反応は良くても、稟議に回されるとNGになっちゃって……。その担当者も翌日はそんなに乗り気ではなくなってるし……
あー、人って翌日になると冷静になりますから。
朝起きたときに「ん……?フリーハゲ……?って」
その場でハンコ押してもらうのって大事ですね。
他人のフェチを聞くために100人が集まる
去年(2016年)って、自分にとって印象深いイベントが2つあったんですよ。計画的に準備した規模の大きいイベントと、突発的に起こした規模の小さいイベント。
大きなつづらと小さなつづらみたいですね。
大きなイベントを開けると中には魑魅魍魎が……
魑魅魍魎っちゃ魑魅魍魎なんですけど、大きいほうは「フェチ×プレゼン」というイベントです。TED風にフェチをプレゼンするんです。
TED風にフェチをプレゼンする「フェチ×プレゼン」を主催した
僕、TEDがすごい好きなんですよ。デカいステージとスクリーンの、あのスタイルって格好いいじゃないですか。でも一方で、普通のプレゼンってあんまり面白くないな、っていうのもずっと思ってたんですね。大学の研究発表でプレゼンするときも、1枚目のスライドでふざけたりとかしてたんですよ。
なんのスライド出したんですか。
ガンダムとか。
怒られるでしょ。
怒られるんですよねぇ。真面目なプレゼンって「型」があって、型から外れると怒られちゃう。じゃぁ、普段誰も発表しないような内容のプレゼンなら型なんかないだろう、と思って開始したのが「フェチ×プレゼン」です。堂々としゃべることでもないことを、思いっきりしゃべってもらおうと。プレゼンターが8人集まって、客席は100人近く埋まりました。かなり盛り上がったんですよ。
他人のフェチを聞くためにそんなに人が。どんなフェチが集まったんですか?
一番印象に残ってるのはフリーライターの女性がプレゼンした「頭蓋骨」ですね。男性の頭蓋骨が好きなんですって。黒バックに白字のスライドが頭蓋骨っぽくて格好よかったですよ。平べったければ平べったいほどいい、って言ってました。全然意味わからないですけど。
頭蓋骨を何かに転用するつもりなんでしょうかね。物を書くのに収まりがいいとか。
完全に殺したあとの利用法の話。
男子高校生がプレゼンした「黒タイツ」も盛りあがりましたね。1枚目のスライドが宇宙なんですよ。「これから宇宙に一番近いものについてお話しします」と始まって、次のスライドが黒タイツのアップ。円形に光ってる部分が銀河の形にピッタリ重なる!黒タイツは宇宙に近いんだ……!と、こんな感じで、意味ありそうで何にも意味が無いのが最高でしたね。最終的に彼が優勝しました。
1枚目をガンダムにしてふざけるのと一緒ですね。これは2回、3回と続けていくんですか?
大好評だったので第2回も……とはその場で言ったんですけど、実はあまりモチベーションが無くて。コンテンツとしては面白くて、形にはなったんですけど、終わったあと「僕がやりたいことと違うかもしれない……」と思ったんです。規模を大きくすると、顧客満足度を高めるのに限界があるんです。
ひとりひとりをケアできない、ってことですか?
そうですそうです。イベントって、たくさん人を呼ぶのが成功で、大規模こそ正義って考え方があるじゃないですか。でも、100人くらい人が集まると、なかなか密に接することができない。なんか寂しいな……と。モヤモヤした思いを抱えたまま、一ヶ月後に「浮き輪で島を作る」ってのをやるんです。これが衝撃でした。
段取りボロボロ、でもめっちゃ楽しい
浮き輪っていっても、寝そべって浮かべるタイプのやつですね。
フロートマット(四角い浮き輪)をたくさん繋げて島を作った
あれをたくさん買って、防水テープでつなげたらデッカい島になるんじゃない!?と。準備はAmazonでフロートマット24枚と防水テープを買うだけ。参加者は10人くらい集まったのかな。海水浴場にいる人も巻き込みました。
新手のナンパだ。
途中で巨乳のお姉さんも加わってくれて……
ナンパに成功してる。
計画がいい加減だったんで、ハプニングだらけでしたね。空気を入れるポンプが壊れたりとか、マットが強風に煽られてテープが剥がれたりとか、完全に行き当たりばったり。でも最終的に全部つないで島ができて、何人か乗って浮いたんですよ。
これがめちゃめちゃ楽しかった。なにより僕が一番楽しい(笑) これくらいの規模でワイワイやるのが、実は一番楽しいのかもしれないなって。
逆に、これを100人でやったら大変になりますもんね。マニュアルとか準備しないといけないだろうし。
スタッフも何人か用意して、「A列の方は~」とか仕切ったり……
あぁ~面倒ですよね。そうなるともう「労働」になっちゃいますもん。
似たような話が『サピエンス全史』って本にありましたよ。狩猟民族の頃は少人数の部族で固まって楽しい生活ができたんだけど、農業革命が起きてたくさんの人を食わせられるようになり、それで人口がすごい増えた途端に仕事がきつくなったらしいんです。
へ~。獲物を「待てこら~!」って追いかけてるほうが楽しかったのに、農地を分担して耕して……ってやると労働になっちゃうってことかな。おもしろい。
確かに似てますね。「フェチ×プレゼン」は周到に準備した大規模のイベントだったんですけど、「浮き輪で島を作る」はボロボロの段取りながら全員の顔を見ながら楽しむことができました。小規模で、顔が見えて、一緒に作り上げていくのが自分のスタイルに合ってるのかもしれない、って、2つのイベントを通じて思ったんですよね。
ヒトツダケ商品は「あの村 村民権」
さて、この「ヒトツダケ商店街」では商品をひとつだけ売ることができます。堀元さんが「ヒトツダケ商店街」で販売する、たったひとつの商品とは……?
「あの村 村民権」です。
村……?
そう、なんでもこの方、村をね、売ってくれるらしいんですよ。
村を?? 売る?? Amazonで村を買えたりするんですか?
いやいや。あ、そういえば昔、楽天で「城」を売ってる人いましたよ。億単位だったと思うんですけど。
億単位! 楽天ポイントめっちゃ貯まるじゃないですか。
説明してもいいですか。
すいませんすいません。え?……村を作られたんですか?
「DASH村」をやろうと思ったんですよね。知り合いの起業家から、千葉県鴨川市にある1400坪の山林を借りました。
そんな土地よくありましたね。
その起業家の方も、実は村を作るために土地を買っていて、でも使っていなかったんです。
そんな偶然ある? 村作りそんな流行ってましたっけ?
「DASH村やりたい」って人、周りに結構いません? その起業家の周りにも、飲むたびに「DASH村やりたい」って言ってる友達が居たんですって。じゃぁ土地を買ったらみんな喜ぶだろう!と、サービス精神を発揮して土地を買ったら友達は「え……」ってなったらしくて。
ドン引きされちゃった。
まあでもちょっと分かりますよ。やりたいなぁーって言うのと実際にやるのとは違いますもんね。
だったら僕がやります!って感じで借りたんです。完全にラッキーでしたね。でも同じこと考える人も結構いて、実は既に「村を作ろう!」っていうのが日本のあちこちにあるんですけど……違うんですよ。みんなね、DASH村じゃないんですよ。運営がある程度村を作っちゃってて、住民は畑作りとかDIYとかの「お手伝い」しかできないんです。
なるほど、自由度が低いんだ。
「DASH村やりたい」って本気で思ってる人って、ゼロから作り上げたいはずなんですよ。うちは本当に手付かずの状態から全部作り上げます。家も無いですから、家から作ります。失敗しましたけど。
昨年7月に行われた、家を作るワークショップ。失敗したそうです!!
わあ。でも、その失敗すら楽しもうってことですよね。
「失敗したね~」って笑いながら帰る感じだ。
それもいい思い出だと思うんですよね。この「あの村プロジェクト」では「村民権」を買った人が「村民」になり、広い土地で好きなことをしてもらおうというものです。スタッフが24時間365日常駐してるので、いつでも行きたい時に来れます。スポーツジムの会員権をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。
それって住んじゃってもいいってことですか?
日帰りも、一泊も、住むのも自由です。ただ、建てたものはみんなでシェアできれば。とりあえず、まずはツリーハウス作りや治水工事を考えています。電気はソーラーパネルでしばらく頑張ってみようかと。
けっこう、ガチな感じがする。ぼく、村作り未経験なんですけど大丈夫ですか?
だいたいの人は村作り未経験ですけどね。
いや、たまに来る人も楽しめるように工夫しています。他の村民が立ち上げたプロジェクトにたまに参加する、みたいな関わり方もできますし、こちらで月に一回主催するイベントに参加するだけでも楽しいですよ。関わり方は本当に自由です。
先日行われた鶏の丸焼きツアー。
すごいなぁ。子供を連れてったら楽しいかもなぁ。
おっ、村民になりますか?
でも僕、アウトドア全然できないんですよ……
僕もダメですね。
僕もアウトドア全然興味ないですよ。むしろ嫌いです。キャンプとかもしないですもん。
えっ!
キャンプってぶっちゃけ、終わったあと何も生まれないじゃないですか。テント立てて、食べ物作って食べて、寝て、片付けて帰って。物として何も残らないな……って。
あーすごいわかる! 僕も同じ理由で好きじゃないんです。作業になっちゃいますよね。
アウトドアは興味ないけど、モノづくりは大好きなんですよ。「浮き輪で島を作る」で感じた、少人数で一緒に何かを作り上げるっていうのに、最高の場所なんじゃないかなと思うんですよね。
全部つながってるんですね。
僕、子供のころ「人生ゲーム」に納得いかなかったんですよ。人生ゲームって、最終的に所持金の総額で勝敗が決まりますよね。で、ゴールの手前に「宇宙旅行に行く10万ドル使う」ってマスがあって、ここに止まると大金を使うからほぼ負けちゃう。でも本当の人生って、お金をたくさん抱えて死ぬより、最後に宇宙旅行に行って死ぬほうが絶対勝ちじゃないですか。僕は、子供の頃から人生の面白さを最大化したいと思ってたんですよ。「あの村」は、関わってくれた人全員の人生の面白さを最大化する場所にしたいんです。
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手付かずの山林から村を作り上げる「あの村」プロジェクト。村民にはオンラインの専用コミュニティも用意するそう。村民同士の横の繋がりも大切ですもんね。正式オープンは2017年7月を予定。説明会も随時行っているそうなので、気になる方は話を聞いてみてはいかがでしょうか。
あの村プロジェクト公式サイト
https://anomura.jp/