ヒトツダケ商店街ヒトツダケ商店街

自作のカードセットで世の中のコミュニケーションについて考えている人の話

話す人メドラボ/福元和人さん
聞く人井上マサキ
公開日:2016.12.13編集日:2016.12.20
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今回「ヒトツダケ」に登場するのは、語るためのカードセット「カタルタ」を開発・販売しているメドラボ代表の福元さん。「しかし」や「それから」など言葉が書かれた不思議なカード・カタルタ。使い方次第で思考ツールやコミュニケーションツールにもなるのだそう。誕生のきっかけを聞いてみると、子供のころの「忍者の修行」がルーツだそうで……!?

★ヒトツダケ商店街レポーター

お笑いと路線図が好きなフリーライター。好きな食べ物はカレーと黒糖かりんとう。


やいのやいの言う係。




忍法・秘密をわかりあうの術

これが「カタルタ」ですか。トランプのようなカードに、「もし」「なぜなら」「さもなければ」など書いてありますよね。





元々は思考ツールとして考えたものだったんです。考え事をゲーム化するためのツールとして作りました。


アイデアを出したり、まとめたりするときなどに使うカードセット。


そうそう、でもこれ「語る」ためにも使えるなと。


語る?


例えば、このカードをめくりながら自己紹介すると、自分のことをしゃべろうとしてるのに「一般的には」「しかし」みたいに流れを乱すカードが現れて、思いもよらない会話や発想が生まれます。今は、コミュニケーションツールとして、チームのアイスブレイク、企業研修などに使われることも多いんです。




公式サイトでは、いろいろな使い方がユーザから提案されています。


面白い……カタルタを作られるきっかけはなんだったんですか? これ失礼かもしれないですけど、普通に暮らしていて急に「あっ、カードを作って暮らそうっと」って、思わないですよね


きっかけは……なんでしょうね、たくさんあって……どこまでさかのぼればいいのか……


じゃぁ一番前までさかのぼると?


一番前は……僕、子供のころ忍者の修行をしてたんですよ


忍者……!?


「忍者ハットリくん」にほだされまして……。


ほだすって。向こうもほだしているつもりはないと思いますけど……。


僕1975年生まれなんですけど、小学校のころって藤子不二雄とジャッキー・チェンが流行って、忍者と拳法のどっちを修行するかって感じだったじゃないですか


僕も1975年生まれですけど、そんな二択でしたっけ!?


まぁそんなブームが来まして、オリジナルの拳法とか忍法を考えるのに熱中したんですよ。特に忍法は、巻物を作るのに夢中になったんですよね。


巻物を。


2巻くらい作って。


上下巻。


そこに「忍法怒られても凹まない術」とか書いてたんですよ。「バカー!っていいながら風船を膨らまして割る」とか。


まさかのメンタル面の忍法。


今で言うところのライフハックだ。


あと、毒薬を作るとか。危ないのじゃなくて、お風呂にメローイエローのビンを逆さに入れてオナラをためたり、その辺の悪そうな植物とか落ちてる物を入れたりして、どんどんそれっぽくしちゃう。


そこそこの毒物ですね。


そういうのを巻物に書き記すのに燃えました。まだ見ぬ弟子に巻物を授けるため、秘密の方法や道具をワクワクしながら書き残して……というところに、いまのルーツがあるんだと思うんです。


秘密を伝える方法ってことですか。


『スモーク』という映画に「秘密を分かち合えない友達を友達と呼べるか?」って台詞があるんです。秘密を分かち合うことで距離が縮まることってありますよね。カタルタに話を戻すと、思いもよらない展開で「うっかり出た言葉」こそ、取り繕ったものじゃない、魅力的な情報だと思うんです。人に秘密を授けることにワクワクするのは、忍者の修行が原点だったのかなと。


秘密をわかちあうことで距離を縮めるってのも忍法っぽいですね。


忍法・秘密を分かち合うの術


そうですね。



全身のあらゆるところにメモ帳

その忍法が、結果としてカードという形になったということですけど、忍法からカードまでまだ結構な距離ありますよね。ちゃんと進化しますか? カードまで。


そう、それで、何か作ろう、と思っていた当時、デザインコンサルティング会社のIDEOが「メソッドカード」というデザイン支援ツールを出してたんです。これはいいなと。それで、2007年くらいに自分もメソッドカードを作りました。でもちょっとマニアックで、説明も難しかったんです。試行錯誤の末に30回くらい作り直して……。


そんなに。


もっと直感的にせねば……と考えてるところに「接続詞」をひらめいたんですね。どういうことかと言うと、当時、すごい大量にメモを取ってて、常にメモ帳を4冊持ち歩いてたんですけど……。


4冊も!内容で使い分けてたんですか?


いや全然。思いついたら手が届くところに……。


全身にメモ帳じゃないですか。


撃たれても平気だ。


「こいつのお陰で助かったぜ……」ってやつ。


当時はスマホとか無いので、思いついたらすぐにメモを書くしかなかったんです。スクランブル交差点の真ん中でアイデアを思いついて、しゃがんでメモを書いてたこともありますよ。友達に「危ない」って言われましたけどね(笑)。とにかくアイデアを忘れたくないと。書き留めるときも手が追いつかなくて、書き出しと、句読点だけ先に打っちゃうんですよ


あとで「なんだこのメモ」ってなりません?


なりますよ。


なるんだ。


でも構造だけ残していれば、思い出せる確率は上がります。6勝4敗くらいには持ち込める。


なるほどなー。俺読み返すと意味不明なメモいっぱいあるから今度やってみよう。


構造をメモする。これはこれで、でもこれはこうで……と書き出しや句読点だけ記しておいて、次に書ける機会まで覚えておく。この「構造」の部分がまさに「接続詞」につながったんです。「そのままカードでやればいいじゃないか!」と。だから、自分が考えるときに無意識にやっていた手法を、「接続詞」という形で目に見えるものにしたのがカタルタの原点です


コミュニケーションツールとしてのカタルタ

考えるためのツールだったカタルタですけど、結果としてコミュニケーションのツールにも使われていますよね。


そうなんです、どっちにも使えるツールのつもりだったのですが、コミュニケーションツールとしての需要のほうが大きかったですね。「接続詞」のほかに「副詞」も入れて、面白くするため、発見を増やすための言葉を選定して、今に至っています。


その言葉の選定はどうやったんですか?


ひたすら実験ですね。いつも試作のカードを持ち歩いて、最初は友人から始めて、初対面の人と話すときにもカードを取り出して、試して。


トランプマンみたい。


トランプマンって初対面の人の前でカード取り出すの?


今残ってる言葉は、300人ほどの語りに鍛えられて勝ち残った言葉たちなんですよ。精鋭です


なんかかっこいい。


ご協力いただいた300人をスベらすわけにはいかないから必死ですよ。カタルタつまんなかったら、じゃあ実験は何だったんだって話になりますから。





外国人専用シェアハウスの「日本代表」に

コミュニケーションツールとしてのカタルタ。コミュニケーションを改善したいという思いはあったんですか?


そうですね。あ、僕はどちらかというと伝え下手なんです。カタルタを作る過程で、修行のために外国人専用のシェアハウスに住んでいたことがあるんですけど……


えっ、外国人専用シェアハウスに日本人として?


日本代表じゃないですか。


伝え下手が飛び込むところにしては水深が深すぎませんか


全体7枠のうち2枠まで日本人枠があったんです。マイノリティの中に入って「マイノリティの中のマイノリティ」になることで、思考ツールの修行になるだろうと思って。


日本に住んでいる外国人の中に住んでいる伝え下手の日本人。


確かにマイノリティの中のマイノリティ。


何かを伝えるにも、すごい前提から考えないといけないので、コミュニケーションにより努力が必要になります。話を始めるときも「逆のこというと」とか、ざっくりとした文頭の言葉を伝えて、相手にも一緒に考えてもらうとうことをするわけです。そうすると勘がいい人って「これか?金の斧か?銀の斧か?」みたいに候補を出してくれる


相手もグローブを構えてくれますよね。


会話はみんなで作るんだ、コラボレーションなんだ、とリアルに感じる場所でした。つなぎ言葉のボキャブラリーも増えましたね。「あいつandとbutしか知らないぞ」ってなるのは恥ずかしいので、「具体的には」とか言えるようにして。


じゃぁ英語も相当上達したのでは?


いや、シェアハウスの外国人は日本語をしゃべりたい人も多かったんで……。


そうか。向こうも日本語覚えて使いたい〜ってなってますもんね。


結局英語が上達するより、自分の日本語が片言になりました。語尾に不自然に「ね」をつけちゃうとか。「そうね~」「いくね~」みたいに。


うちの2才児が今そんな感じです


ちなみに、その頃の写真とかないんですか?


シェアハウス内はあまりに日常すぎて、全然写真を撮ってないんですよ。単に当時の写真ならあります。制作初期から相談に乗ってくれた友人たちと撮ったもので、シェアメイトも一人写ってます。




「修行」時代の恩人たちと。右から3番目が福元さん。


トランプにするつもりじゃなかった

カタルタって、トランプにもなっていますよね。これも最初から考えてたんですか?





トランプ……そうなんです、トランプって言いたくなかったんですよね……。トランプ作りたかったわけじゃないし……


あれっ、葛藤がすごい。まずいこと聞いたのかな。


最初はオリジナルのマークにしてたんです。逆接とか順接とか、言葉の種類に合わせて7種類くらいの記号をつけて。でも取説ってみんな読まないじゃないですか。「メソッドカード」っていう言葉も通りが悪いし。横文字使いたいのかよ、みたいな。


「アグリーしかねますね」みたいなやつですよね。


あともうちょっと言うと、この頃「主に」などの副詞を投入しているんですけど、そうすると、オリジナルのマーク、接続詞の分類に合わせて設定してた色数やデザインの意味がなくなってしまって。どうしようかなあと。


トランプにしたほうが良さそう、ってのは感じてたわけですよね。でもしたくなかったんですね。


2010年に「トランプにしてもよい」と自分を説得するのに成功しました。自分には、自分自身を焚き付ける、燃える言葉の設定が必要だったんです。


なんだか大変な説得の予感がする。


「楽しいよ」とアピールするために、ゲームという言い方は必要だなと。で、トランプもゲームであると。トランプには歴史があり、長い年月をかけて人類が作り上げてきたオブジェである。もはやこれは言わば「宮殿」であると。人類が作り上げた宮殿だと。


……


……(何言ってんだ?)


言葉もトランプも歴史によって磨かれたものであり、繰り返される日々の中で道具としての価値を残してきたものだ。トランプという「宮殿」のギャラリーに、言葉をつまみあげて飾る。「宮殿」に封じ込める……そう捉えれば……。


捉えれば?


ま、いっかなと。


こう……「トランプ」という存在を、「言葉」が存在する地点まで引き上げた感じですかね……。


何言ってんだか殆ど分からなかったけどすごい考えたってのは分かった。




ヒトツダケ商品は「カタルタ #8 スタンダード / 日本語版」

さて、この「ヒトツダケ商店街」では商品をひとつだけ売ることができます。メドラボが「ヒトツダケ商店街」で販売する、たったひとつの商品とは……?


「カタルタ #8 スタンダード / 日本語版」です。





前のバージョンからデザインが変わりました。


葉っぱなんですね。


「言の葉」という意味もありますが、小さい子って葉っぱを使って遊ぶじゃないですか。なんか葉っぱを持っているだけで楽しそうだろうと。楽しい以前に、楽しそうじゃないといけないと思いまして。うちの2歳の息子も葉っぱで楽しそうに遊んでますからね。


子供って葉っぱやら枝やらドングリやら拾いますよね。うちも玄関の前に祭壇みたいになってますよ。怖くて誰も壊せない。


信仰が生まれそう。





内容もバージョンアップされているんですか?


4語差し替えています。


脱落したワードがあるんだ。今頃家で泣いてそう。


新たに「あるいは」「思えば」「今のところ」「それから」を採用しました。反響を見ながら調整している感じですね。


「あるいは」「それから」は思考ツールっぽいですね。「思えば」「今のところ」は自分の考えを言う感じかな。


自分語りを誘発するようにしたんです。自分語りってしづらいじゃないですか。「また自分の話してる」ってなっちゃう。でもこれならカードのせいにできる


「出ちゃっただからしょうがない」と(笑)


カードを入れ替えて、コミュニケーションのさじ加減をコントロールするわけだ。面白いですね。


話したいことがあっても、そこに遠慮があったり、暗黙のルールがあったりすると、コミュニケーションって前に進まないじゃないですか。それは悲劇だと思うんです。ならばこうして、ゲームの形で「見えるルール」にすればいい。コミュニケーションの窮屈さが少しでもなくなればいいなと。


秘密も分かち合えるくらいに。


世の中に対して僕ができることは本当にささやかなものです。やれることがあるとするなら、こうしてカタルタの言葉を差し替えるくらいですよね





メドラボ代表:福元和人さん

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カタルタは学校や企業研修でも使われているそう。自己紹介や対話型の講義などで、コミュニケーションのツールとして利用されているんだとか。カードのいたずらによって思わぬ「本音」が出てしまうカタルタ。公式HPには様々な遊び方が紹介されているので、チェックしてみてはいかがでしょうか。

カタルタ PLAYING STORY CARDS
http://www.kataruta.com


今日話してくれた人

メドラボ福元和人さん
鹿児島生まれ。カタルタ考案者。2012年にメドラボとしての活動を開始。同年、語るためのカードセット『カタルタ』を発表。コミュニケーション/発想支援ツールの分野において、直感的で使い方を規定しない「思考遊具」の制作に取り組んでいる。

記事を書いた人

井上マサキ
ライター。好きな路線図はロンドンとプラハ地下鉄。子供のころ「脱サラ」はサラ金から逃げ切ることだと思っていました

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無駄に詳しくなります。