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落語家を呼ぶには幾らかかるの? 林家時蔵さんに聞いてきた

話す人噺家/林家時蔵さん
聞く人井上マサキ
公開日:2017.04.18編集日:2017.04.18
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「こんな明確な金額を打ち出した芸人は誰もいないんだから」。落語家・林家時蔵さんがホームページで売っているのは「高座」。気軽に呼んでもらえるようにと、落語家セットプランの料金表が載っているんです。全国どこでも行きますよ、と言う時蔵さん。せっかくの機会なので、落語に対する素朴な疑問も聞いてきました!

★ヒトツダケ商店街レポーター

お笑いと路線図が好きなフリーライター。「脱サラ」はサラ金から逃げ切ることだと思っていた。


やいのやいの言う係




落語家はみんな住み込みとは限らない

芸歴はいま何年目になるでしょうか?


入門したのが昭和48年2月22日だから……44年目になるのかな?


日付まで覚えてらっしゃるんですね!


師匠のとこに1ヶ月くらい通って、やっと入門したからね。入門したら最初は「見習い」で、すぐ辞めたりしないかなって様子を見た後に「前座」になります。今だと1年半くらいかかるのかな? あたしは2月22日に入門して、4月1日にはもう池袋演芸場に前座で入りましたね。


落語家さんの修業時代って、やっぱり師匠の家に住み込みなんですか?


いやいや、ほとんど通い。


えっ、そうなんですか!?


すっかり住み込みのイメージでいたなぁ。


だって、弟子が2人いたら1人1部屋でも2人1部屋でも、結局弟子用の部屋がないとダメでしょ。その辺の台所で寝るわけにいかないんだから(笑) 今の住宅事情だと、マンション住まいの師匠なんてまず住み込みは難しいですよ。


まさかの住宅事情。そうか、マンションに住んでる師匠もいるんだ。師匠はみんなでっかいお屋敷に住んでるわけじゃないですね……


いまそんな時代じゃないよ~


嘉門達夫が笑福亭鶴光の弟子だったとき、住み込みで大変だったとか聞いたことありますよ。てっきりみんな住み込みなんだと思ってました。


あ、ということは、住み込みの弟子を取る師匠は、家がすごくデカいってことですか?


まぁそうですね。当時は三遊亭圓歌師匠と柳家小さん師匠くらいだったかな。小さん師匠なんかは常に2,3人前座がいて、弟子の部屋がちゃんとありましたよ。小さん師匠は剣道が好きで道場もあったから、最悪の場合は道場で15人くらい寝られるかもね(笑)


時蔵さんは弟子を取られないんですか?


めんどくさいよ~。


ここまで住宅事情の話だったのに、理由が「めんどくさい」だった。


子供3人がいるから、それで十分だよ。大変だよ? 育てるなんてのは。弟子がカミさんとうまくいくかどうかもわかんないしね。あ、それで弟子が辞めるってのもあるんですよ。師匠はいいけどカミさんと合わないって。これもう最悪だよね。


落語以外の要素で辞めちゃうってことですか。それはもったいないですねぇ。


ね、もったいない。でも弟子である以上、しょうがないんだよね。




せっかく覚えたのに一回でやめちゃう噺もある


取材日、深川の江戸資料館にて開演前。お客さんが続々と入ってきます。

前座のうちは雑用ばかりでね。着物畳んだり、お茶を出したり、座布団返したり、お使い行ったりとか。だいたい4,5年経つと「二ツ目」に昇進するんだけど、私は4年目のとき師匠に「5年やってます」って嘘ついて……。


え! そんなイージーな嘘が通じるんですか!?


朝掃除してたら「このあいだ、理事会でお前を二ツ目するかって話が出たんだけど、何年やった?」って聞いてきて。「えー、5年やってます」って、なぜか言っちゃったんだよなぁ。1年足したほうがいいかなって(笑)


あとでバレたりしなかったんですか?


バレないバレない。今は履歴書とか全部あるんだけど、あの頃はまぁ、履歴書ったって適当なもんで、師匠もいちいち気にしてないの。師匠からは「そうか、5年やったんだ……」ってしみじみ返されて、ちょっとね、胸が痛んだけど。言っちゃったのはしょうがないよね。


ライトな経歴詐称だ。今だとSNS警察に発見されて炎上するやつ


とにもかくにも二ツ目になりました、と。前座から二ツ目に上がると雑用からは解放されるんですか?


そう。楽屋の下働きが一切なくなるから、体は暇になるんですよね。ここで落語をちゃんと勉強するかしないかでずいぶん違う。二ツ目で一番差がつくって言いますね。


高2の夏みたいなもんですね。


どれくらいの数、噺を覚えるものなんですか?


まぁ、前座のうちは30くらい。二ツ目で勉強して、真打ちになるまでに70~80はないと大変じゃないかな。私でいま180ぐらいですから。あ、でも1回しかやってないのもありますよ。1回やって嫌になっちゃったの。


せっかく覚えたのに?


他の人がやると面白いんだけど、自分でやるとウケないってのがあるんですよ。聞いてる分には面白いから、自分もやればウケるなって思うじゃないですか。でも必ずしもそうじゃない。その人の雰囲気とかキャラクターとか、落語では「フラ」って言うんですけどね。その人のフラに合う噺ってのがそれぞれあるんです。


自分の「フラ」がどんなものかって、自分でわかるものなんですか?


自分よりもね、お客さんの評判ですよ。自分でいいって思ってなくても、お客さんに「よかったよ」と言われることもあるし。逆に、今日はいい感じだったな~と思ってたのに、「今日元気なかったね」なんて言われたりする。そんなことはしょっちゅうですよ。


じゃぁ、お客さんからやってほしい噺を提案してもらったらいいんじゃないですか?


おっ、リクエスト方式ですね。


いや、それがね、人から勧められてやった噺ってまずダメなんですよ。「あの噺似合いそうだからやったらどう?」って言われてやってはみるんだけど、結局うまくいかない。自分で「やりたい」って思う噺じゃないとダメですね。やってる気持ちと聞いてる気持ちはね、やっぱり違うんですよ。




おばちゃんのフォーメーションが重要



高座でかける噺はどのようにして決めるんですか?


事前に演題を出しているときもあるけど、そうじゃなかったら大体2つか3つ、今日の客だったらこれかこれかこれくらいって選んでやることが多いですね。前座の様子を見て、どんな客か判断して決めます。これも人によって違って、全然決めないで上がる人もいますよ。でもあたしはそういうのは大体失敗しますね。


やってみたことがあるんですか


ありますあります。でも途中で「やめりゃぁよかったなぁ」って、もうしょうがない(笑)


「これじゃなかったなぁ」と?(笑)


そうそうそう。失敗しちゃったなって。だいたいウケない場合ですけどね。ウケる噺でウケないとショックが大きいじゃないですか。おかしいなぁ、どっか間違えたかなぁ?とか(笑) そうすると間が狂っちゃってグダグダになっちゃう。


でもお客さんの調子も日によって全然変わってきますよね。例えば僕は今日お腹が空いてるじゃないですか。


知らないですけど。


ウケないならウケないなりに、そういうお客さんには人情噺とか聞かせる噺にするんですよ。逆にところ構わず手を叩いて笑ってる客もいるんだよね。「うるせぇなぁ」って(笑) そういうのいると他の客が引いちゃうから、おかしくなっちゃう。


お客さん同士の相乗効果ってのもありますよね。


ありますよ~。誰かが笑わないともう、笑わないってありますからね。誰か笑ってくれる人が一人いると全然違います。だいたいおばちゃんですよ。おばちゃんが真ん中あたりにいるといいな。おじさんはダメ。腕組みとかしてるから。


それを突き詰めていくと、おばちゃんの良いフォーメーションとかあるんでしょうね。


確かに固まりすぎるとよくなさそう。


あー、同じところに固まってるのはダメですね。


多分ね、こう、5.1チャンネルみたいな感じで散らばってると良いんじゃないかな。


ウーハーのおばちゃんとサラウンドのおばちゃんがいる。


7:3、8:2くらいでおばちゃんがいるのが理想ですね。




ヒトツダケ商品は「林家時蔵を呼べる」



さて、この「ヒトツダケ商店街」では商品をひとつだけ売ることができます。林家時蔵さんが「ヒトツダケ商店街」で販売する、たったひとつの商品とは……?


「高座」ですね。呼んでもらえれば全国どこでも行きます。ホームページに料金表を載せてるんで、好きなメニューを選んでもらえれば。


プランと価格が並んでいて、スマホの料金プランみたいですね。「古典落語A 前座さん15分+時蔵30分 60,000円」とか。



サイトには明朗な料金表があります

料金がはっきり書いてあってわかりやすいですね。


そうそう。これを一番お客さんは知りたいわけですよ。だいたいの落語家は「ギャラをご相談のうえ」とか交渉ごとにしてるし、プロダクションとかは「20万~」って「~」が付くんだよね。そういうのやめさせようと思って。こんなに明朗会計にしてるのって他にないですよ。


ほんとにこの金額だけでいいってことですか?


そうはいっても「お気持ちで……」みたいなのが?


ないない(笑)


呼ぶ側が準備しないといけないものってありますか?


座布団くらいですよ。広い会場だと音響が必要だけど、基本的には座布団とお客さんがいれば成り立ちます。そこが落語の醍醐味ですよね。


これまで珍しい場所で落語をやられたりってことはありますか?


ありますよ。サウナ風呂とか。


サウナ!?


サウナの休憩室ね。


びっくりした~。サウナの中かと思いましたよ!


お客さんもオチ聞きたいのに我慢できず途中で出ちゃう。


中だったら3分ももたないよ~。着物なんか汗でグッショグショだよ! あとはね、ゴルフコンペもあった。昔は結構大きなコンペがあって、50組とか100組とかいっぺんに回ったりしたんですよ。そうすると、早くホールアウトした組が暇になっちゃうんだよね。先にビール飲んでるわけにいかないし。その時間を利用して寄席をやったことがありますよ。


それって、やってる間にどんどんゴルファーが来ちゃうんじゃないですか?


サウナは出て行ったけど、ゴルフ場だと入ってきちゃう。


途中で来ちゃいますけどね、そういうもんだと思えば噺もちゃんと選びますよ。どこでも切れて、どこからでもわかる噺をやりますから。そういう選択ができるのも年季が入っている強みだよね。


なるほど~


メニューに「環境落語」ってありますけど、これってオリジナルですか?


そう、オリジナル。創作落語ですね。「環境漫才」をやってる夫婦漫才師がいて、これなんとか落語にならないかなって許可もらって勉強したんですよ。環境シンポジウムの集まりとか、都の清掃事務所の講演会とかも顔出してね。昔は「オキシンの大きいのがダイオキシンだ」とかやってたの。でも今ダイオキシンなんて全然問題になってないし、時代によってネタも変えないといけない。


そうか、アップデートしないといけないんだ。


昔の常識とか数字とか変わっちゃうもんなぁ。


前はプラスチックは燃やさないゴミだったけど、焼却炉の性能が良くなって燃えるゴミにしている自治体もありますからね。あと終わってから「あのデータ古いですよ」って言われて訂正したり


落語でデータの指摘されるの面白いなー。


そういえば最近ペットボトルのフタを集めるの止めたらしいですよね。結局リサイクルしてもコストの方が大きいらしくて。


へぇ~そうなんだ。


「環境落語」で呼んでくれるのは自治体が多いですね。ゴミの減量とかリサイクルとか、街ぐるみでやってるところだと年に1回くらい表彰するイベントがあったりするんですよ。誰々さんがこういう取り組みをしましたとか。そういう場所でやることも多いですよ。


「環境落語B」プランだと環境落語30分に加えて「講演30分~50分」もありますもんね。


自治体なら予算もあったりするだろうし、値段がはっきりわかってたら呼びやすいだろうなぁ。




あたし、76歳までしか生きないから

芸歴44年目で現在69歳じゃないですか。普通のサラリーマンで考えたらもう引退する年齢ですけど、落語家さんはまだまだこれからですよね。


そうね。落語家で引退とか、普通考える人いないんじゃない?


じゃぁこれから10年20年……


いや、あたしはあと8年だから。76歳までしか生きないから。


……決められてるんですか?


うちの親父が72歳で亡くなって、お袋が74歳で亡くなったの。だからあたしは76歳。


まさかの偶数。


それを目がけてね、カミさんも生命保険をかけて……


奥さんまで本気にしてるじゃないですか。


そういえばね、仲間内で葬儀の席に呼ばれた奴がいるよ。亡くなった親父さんが落語が好きだったからって。でもさ、いくら親父が好きだっていっても亡くなってんだもん。みんなメソメソしてるからちっともウケないって。そりゃウケないよ~。


やりづらい!


なんかそういう落語がありそうだなぁ。




=====
お呼びがかかれば個人の誕生日パーティーでもなんでも行きますよ、と時蔵さん。「基本断らない」という万事ウェルカムな体制です。プランの中には前座や二ツ目、色物(マジックや漫才など)も含んだプランもあります。イベントやお祝いの席に「落語」の選択肢も入れてみてはいかが?

林家時蔵オフィシャルサイト
http://www.tokizo.com/index.html



今日話してくれた人

噺家林家時蔵さん
本名/中川義隆 昭和23年3月2日、千葉県千葉市生まれ。
昭和48年、八代目林家正蔵「彦六」に入門。前座名、よし蔵
昭和52年3月二つ目に昇進、時蔵と改名
昭和57年1月に師匠彦六の死去に伴い、兄弟子の五代目春風亭柳朝の一門となる。
ところが、まもなくその柳朝師匠が病に倒れ、同じく兄弟子の林家木久扇へと引き取られ、
入門以来3人の師匠に仕えるという、特異な経歴。

「NHK新人落語コンクール」優秀賞受賞(昭和57年)、
国立劇場演芸場「花形若手演芸会」銀賞受賞(昭和59年)
昭和60年真打ちに昇進、芸歴44年。

記事を書いた人

井上マサキ
ライター。好きな路線図はロンドンとプラハ地下鉄。子供のころ「脱サラ」はサラ金から逃げ切ることだと思っていました

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